ネット上の掲示板やSNSでは、ADHDの治療薬に対して「性格が180度変わる」「別人のように冷徹になる」といった極端な言説が散見されます。しかし、臨床精神医学の観点から言えば、薬物が個人の核となる「人格(ペルソナ)」を書き換えてしまうことはあり得ません。それにもかかわらず、本人や身近な人が劇的な変化を感じる背景には、脳内の神経伝達物質に対する直接的な薬理作用が存在します。
精神科のADHD処方薬がドーパミンやノルアドレナリンに与える影響は非常に明確です。ADHDの脳内では、前頭前皮質におけるこれらの神経伝達物質の働きが不足しており、刺激へのブレーキが利きにくく、注意の切り替えやタスク管理に困難を抱えがちです。ここに中枢神経刺激薬や非刺激薬を投与すると、情報伝達の効率が上がり、衝動的な割り込み思考や落ち着きのなさが鎮静化します。
このとき生じるのが、ADHD薬で感情の起伏がなくなる理由とされる「情動のフラット化」です。これまで頭の中で騒がしく渦巻いていた雑念が一掃され、物事を極めて論理的・客観的に捉えられるようになる結果、周囲からは「感情表現が乏しくなった」「愛想がなくなった」と映ります。特にコンサータの性格が変わる真相を追究すると、過剰な過集中と感情抑制が同時に発生することで、以前の感情豊かでエネルギッシュな人物像との落差が「別人のようになった」という錯覚を生み出しているケースが大半です。
さらに、ストラテラ(一般名:アトモキセチン)において指摘される感情鈍麻の理由も、ノルアドレナリンの再取り込み阻害によって交感神経が緊張状態に保たれ、喜怒哀楽に対する感受性の閾値が一時的に上昇することに起因します。決して心が壊れたわけではなく、脳機能が「過剰反応モード」から「抑制・統制モード」へ移行したことによる生理的適応プロセスなのです。