真言宗智山派に属する檀家や、新たに縁を持つことになった遺族が直面するのが、「日常の作法や教理の違い」です。基本的な真言密教の骨格を共有しつつも、智山派特有の様式が存在します。
本尊と仏壇の荘厳(飾り方)
智山派の根本本尊は、真言密教の至高仏である金剛界大日如来です。智慧の深さを象徴する智拳印(左手の人差し指を右手で包み込む印)を結んだ姿が基本となります。
仏壇に祀る際の配置は、宗派の教理を明確に表しています。
- 中央(本尊):大日如来(金剛界)
- 向かって右(脇侍):宗祖・弘法大師(空海)
- 向かって左(脇侍):派祖・興教大師(覚鑁)、または不動明王
本尊の左右に空海と覚鑁の「両祖」を配する並びは、新義真言宗を象徴する極めて重要なルールです。
日常に唱える経典と真言
智山派の勤行で中核となるのは、『般若心経』、密教の根本経典である『般若理趣経(理趣経)』の百字偈、そして諸仏の真言です。なかでも、23文字のサンスクリットからなる『光明真言』(オン・アボキャ・ベイロシャノウ・マカボダラ・マニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン)は、わずか一巻唱えるだけであらゆる罪障を消滅させ、極楽往生を導く万能の真言として日々の勤行で重んじられています。
葬儀における焼香と数珠の作法
智山派の葬儀や法事で焼香を行う際、基本となる回数は「3回」です。
これは、身体・言葉・心の3つの行い(身・口・意の三業)を清め、仏・法・僧の三宝に供養を捧げるという意味を持っています。右手の親指・人差し指・中指の3本で抹香をつまみ、額の高さまで押しいただいてから香炉にくべます。線香をあげる場合も、3本を香炉に立てるのが習わしです。
また、智山派の僧侶や熱心な信徒が用いる数珠は「振分念珠(ふりわけねんじゅ)」と呼ばれる主玉108個の本連数珠です。合掌の際は両手の中指に念珠をかけ、房を下に垂らしてすり鳴らす独特の作法をとる場面もあります。
戒名(法名)の構成と特徴
真言宗智山派の戒名は、通常以下の順序で構成されます。
【梵字】 + 【院号・居士号】 + 【道号】 + 【戒名】 + 【位号】
最大の特徴は、白木位牌や過去帳の最上部に、大日如来を象徴する梵字「ア字(𑖀)」が冠される点です。これは、亡くなった故人が大日如来の慈悲に抱かれ、密教の世界へと旅立ったことを証明する神聖な記号です(※子供の場合は地蔵菩薩を表す「カ字」などが用いられるケースもあります)。位牌を新調する際は、菩提寺の住職に梵字を入れる位置を確認することが欠かせません。