自律性を阻害する最大の元凶は、上司と部下の間に引かれるべき「心理的バウンダリー(境界線)」の崩壊にある。これは家族社会学において問題視される、過干渉な親が子どもの境界線を侵食する「共依存」や「毒親」の病理構造と驚くほど酷似している。
かつての高度経済成長期における昭和型・平成初期のマネジメントでは、業務の手順から私生活の心構えに至るまで、上司が手取り足取り指図するスタイルが「親身な指導」として肯定されていた。しかし、これは部下から自律的な意思決定の機会を奪い、上司の顔色を伺うことに特化した「条件付き適応」を強いる構造にほかならない。
上司が部下の課題(失敗した際のリカバリーや苦悩)まで先回りして奪い取ってしまうと、部下は「自分の人生や仕事を自分でコントロールしている感覚」を永遠に持てない。健全な自律を促すには、「部下の仕事の結果は部下自身の責任であり、上司はその環境整備とサポート役に過ぎない」という冷徹かつ温かな心理的境界線の確立が必須である。
【プロの結論】自律型マネジメントが向いている組織・慎重になるべき組織
あらゆる組織が一律に完全な自律化を目指せばよいわけではない。組織のフェーズや事業特性に応じた見極めが必要だ。
【自律型マネジメントが強く向いている組織】
・ソフトウェア開発、新規事業開発、クリエイティブ領域など、正解が事前に定義できないビジネスモデル。
・メンバー各自が専門スキルを持ち、個々の裁量がスピードに直結するプロフェッショナル集団。
・組織の理念・パーパスが現場の末端まで浸透しており、行動指針が明確な企業。
【導入に慎重になるべき組織(段階的導入が必要な組織)】
・製造プラントの保安管理、航空・鉄道運行、厳密なコンプライアンス順守が最優先される定型オペレーション業務。
・新卒採用直後の初期オンボーディング期間(型を習得する前の「守破離」の「守」のフェーズ)。
・心理的安全性が著しく低く、失敗に対する減点主義が社風として定着している組織(先に組織風土の是正が必須)。