欲望や情念をテーマにした重厚な作品においても、彼の表現力は異彩を放つ。『ダブル・ファンタジー』で見せた歪みつつも一途な愛の表現は、観る者の倫理観を揺さぶるほどの強烈なリアリティを持っていた。複雑な人間心理のひだを、目線の泳ぎや微細な声のトーンの変化だけで表現し切る技量は圧巻というほかない。
また、吉原遊郭を舞台にした映画『花宵道中』では、遊女の心を惑わす男を艶やかに演じた。和装の美しい立ち振る舞いと、どこか儚げでありながら情熱的な眼差しは、作品全体の美意識を大きく底上げしていた。古典的な世界観から現代のリアルな愛憎劇まで、どんな時代背景や世界観であっても瞬時にその場に溶け込み、確固たる存在感を示す力は、まさに実力派の面目躍如である。