ネット上のまとめサイトやSNSの書き込みでは、脇汗をかいている人物に対して「不潔そう」「制汗剤を使っていないのか」「極度のあがり症ではないか」といった心ない言葉が投げかけられることがあります。しかし、これらは人体の生理メカニズムに対する根本的な誤解に基づいています。
まず、汗の量と衛生観念には直接の相関がありません。人間の脇の下には「エクリン汗腺」と「アポクリン汗腺」の2種類が存在しますが、シャツを濡らす水分の大部分は無味無臭のエクリン汗腺から分泌されます。原発性局所多汗症の患者は、一般的な人と比較して汗腺の数自体が多いわけではなく、脳の視床下部から出される発汗シグナルが交感神経を介して過敏に伝達されてしまう「神経伝達のアンバランス」によって引き起こされています。
さらに、「緊張しているから汗が出る」という短絡的な見方も正確ではありません。精神性発汗は、緊張だけでなく集中、興奮、あるいは「汗をかいてはいけない」という意識的な防衛反応(予期不安)によっても連鎖的に増幅します。プロのパフォーマーが全力を注いで表現活動を行っている最中に発汗するのは、生体反応として極めて自然なプロセスであり、個人の精神力の強弱とは無関係です。