一方で、転勤が個人のライフプランに及ぼす影響は年々深刻化しています。共働き世帯が多数派となった現代において、従来の「配偶者が専業主婦(夫)として無条件に帯同する」モデルは完全に崩壊しつつあります。
第一に直面するのが、単身赴任に伴うメリット・デメリットの衝突です。帯同を避けることで子どもの転校や配偶者の離職を防げるメリットはあるものの、生活拠点が2つになることで家賃補助を差し引いても光熱費や食費、帰省費用などで毎月10万〜15万円前後の追加支出が発生します。家族と離れて暮らす精神的孤立感や、遠隔地での家事負担の増大は想像以上の負荷となります。
第二に、転勤族における子育てへの影響です。度重なる転校は子どもの柔軟性を育む側面がある一方、小学校高学年以降の中学受験対策や部活動、友人関係の再構築において強いストレスを与えるリスクを孕んでいます。教育環境の分断を懸念し、持ち家の購入や定住を優先する家庭が増加しています。
第三の壁が、転勤と持ち家・住宅ローンの関係です。自宅を購入した直後に転勤を命じられる事例は後を絶ちません。持ち家を賃貸に出す場合は住宅ローンから不動産投資用ローンへの切り替えが必要になる場合があり、金利上昇リスクを伴います。空き家のまま維持すれば維持管理コストがかさみ、売却すれば譲渡損失が出るリスクもあります。さらに、本人が居住しなくなることで原則として住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の適用対象外となる点(※家族が居住し続けるなど一定の特例要件を満たす場合を除く)は、税制上の見逃せないデメリットです。
そして最も警戒すべきは、環境の激変による転勤ストレスや適応障害・うつ病の発症です。未知の業務、不慣れな人間関係、生活リズムの乱れ、家族のサポート不足が重なることで、赴任後数カ月で心身に不調をきたす事例が産業保健の現場で多数報告されています。