物語のクライマックスにおける核心は、単に肉体を元に戻すことではなく、「なぜ然子が入れ替わりという暴挙に出なければならなかったのか」という根源的な孤独の解消にあります。
入れ替わりの法則を解き明かす鍵は、かつて同じように他者と身体を入れ替えて生きていた謎の女性・宇根(うこん)の存在でした。元の肉体を取り戻すための絶対条件は、「赤月が出ている夜に、入れ替わっている者同士が合意の上で同時に同じ場所から飛び降りること」。しかし、手に入れた美貌と幸福に執着する然子は、再びあの暗く冷たい日常へ戻ることを断固として拒絶します。
ここで事態を動かしたのが、一見冷酷に然子(外見はあゆみ)に寄り添っていた公史郎の真意でした。公史郎はあゆみを裏切ったのではなく、然子の警戒を解いて元に戻る手段を探るためにあえて懐に潜り込んでいたのです。さらに終盤、事態を打開するために火賀と公史郎の間でも一時的な入れ替わりが行われるという極限の心理戦が繰り広げられます。
再び訪れた赤月の夜、ビルの屋上に揃った4人。あゆみは、然子の身体で過ごした過酷な日々を通して、然子が背負わされていた社会的孤立や家庭環境の壮絶さを身をもって理解していました。あゆみは然子を断罪するのではなく、「あなたの苦しみに気づけなくてごめん。でも、逃げるだけじゃ何も変わらない」と、魂の底からの対話を試みます。
火賀と公史郎の命がけの説得、そしてあゆみの無償の寄り添いによって、頑なに閉ざされていた然子の心が遂に決壊します。4人は赤月の下で同時に跳躍し、魂はそれぞれの本来の肉体へと無事に帰還を果たしました。
結末における然子は、決して劇的に外見が変わったわけではありません。しかし、他者を羨み憎悪する目をやめ、自分の人生と向き合う意志を持ったことで、クラスメイトとの関係性にも微かな、しかし決定的な変化が訪れます。あゆみは公史郎との絆を再確認し、誰よりもあゆみを支え続けた火賀は、切ない笑顔とともに彼女の背中を押すという、清々しくも胸を締め付ける幕引きとなりました。