『楓』は、1998年7月7日にスピッツの19枚目シングル『楓 / スピカ』として両A面でシングルカットされました。元々は同年3月にリリースされた通算8枚目のオリジナルアルバム『フェイクファー』の収録曲であり、バンドにとって極めて重要な転換期に生み出された楽曲です。
1995年の『ロビンソン』の大ヒット以降、『チェリー』『渚』とミリオンセラーを連発したスピッツは、90年代中盤の日本のポップシーンの頂点に君臨していました。しかし、急激な狂騒と商業的な成功のプレッシャーの中で、バンドは自らのロックバンドとしての原点やアプローチを見つめ直す時期に入ります。長年タッグを組んできた名プロデューサー・笹路正徳氏の手を離れ、セルフプロデュース色を強めて制作されたのがアルバム『フェイクファー』でした。
アルバムタイトルに冠された「フェイクファー(偽物の毛皮)」という言葉には、「本物にはなれないけれど、温もりを求めて身にまとうもの」「脆く壊れやすい青春の皮膜」といった、ある種の虚無感と切実な愛着が込められています。そのアルバムのクライマックスを飾る『楓』は、余分なギミックを極限まで排除したアコースティックギターと重厚なストリングス、そして草野マサムネの唯一無二のハイトーンボイスによって、聴く者の記憶の深層を揺さぶる楽曲として完成しました。