広島でお好み焼き店を巡る際、多くの旅行者が直面するのが「八昌という名の店が複数あり、のれんの色が違う」という事実です。ネット上では「どちらが本物なのか」「味に明確な差はあるのか」といった議論が絶えません。結論から申し上げると、どちらも正統な歴史を持つ本物であり、それぞれ異なる師弟の歩みから生まれた兄弟のような関係です。
八昌の原点は、創業者である竹内重男氏が立ち上げた店舗に遡ります。竹内氏が手掛け、現在もその流れを色濃く残しているのが、エンジ色や赤色の暖簾を掲げる通称「赤八昌」です。代表格である佐伯区の「八昌 五日市店」などは、地元客に長く愛されるアットホームな雰囲気を持ち、昼時から香ばしい香りを漂わせています。
一方で、全国区のグルメメディアや旅番組で取り上げられ、圧倒的な大行列を作るきっかけとなったのが、通称「青八昌」です。竹内氏のもとで修行を積み、お好み焼きの焼き方を究極の職人技へと昇華させた小川弘氏が、中区薬研堀に構えた店舗がその発祥となりました。小川氏は鮮やかな青い暖簾に白い文字で「八昌」と染め抜き、これが後に「青のれん」として全国の食通に知れ渡るアイコンとなったのです。
両者の関係は敵対的な分裂ではなく、職人としての流派の分かれ道でした。竹内氏の素朴で力強い伝統を守る「赤」、そして小川氏の徹底的な温度管理と食感の追求によって洗練された「青」。この双璧が存在することこそが、八昌という屋号の重層的な魅力を形作っています。