実写映画『キングダム』において、羌瘣役の選出は制作陣にとって最もハードルの高いミッションの一つでした。制作関係者や映画ライターの証言によると、企画段階から「羌瘣はただ美しく華奢なだけの女優では絶対に成立しない」という共通認識がプロデューサー陣や佐藤信介監督、アクション監督の下村勇二氏の間で徹底して共有されていたとされます。
羌瘣というキャラクターの根幹には、超人的な呼吸法で舞うように敵を斬り倒す「巫舞(みぶ)」の身体性と、姉代わりだった羌象(きょうしょう)を殺された深い復讐心という二面性があります。日本のアクション映画界において、本格的な中国武術やアクロバットの基礎を持ち、ワイヤーアクションの負荷に耐えうる女優は極めて一握りです。高校時代からアクション監督・坂口拓氏のもとで過酷な養成訓練を受け、養成所でのボントレ(肉体鍛錬)やトリッキング、アクロバットを血肉化してきた清野菜名さんのキャリアとフィジカルの強靭さは、オーディションや検討リストの中で圧倒的な突出度を誇っていました。
制作発表時の公式資料やインタビューにおいて、佐藤信介監督は「羌瘣のアクションは重力を無視したかのような軽やかさと、骨を断つ鋭利な力強さが同居していなければならない。それを生身の肉体で表現できるのは、清野菜名さん以外に考えられなかった」と明言しています。単に「アクションができる」という枠組みを超え、内に秘めた孤独と哀愁を鋭い眼光だけで語ることのできる演技力の深さこそが、制作陣が彼女に白羽の矢を立てた最大の決定打でした。