この歴史的シンボルを生み出した立役者が、当時のソニー社内で数々の名作プロダクトを手がけていたプレステロゴのデザイナー・坂本学氏です。坂本氏は後に「VAIO」のロゴ(アナログのサイン波とデジタルの2進数1・0を融合させたデザイン)を手がけたことでも知られる、日本を代表するインダストリアルグラフィックの巨匠です。
開発初期、坂本氏のデスクには膨大なスケッチが並んでいました。後にソニーの社内アーカイブやデザイン展示会などで公開されたプレステロゴのボツ案の真相を紐解くと、実に数十種類以上に及ぶ試行錯誤が存在したことが分かります。立体のキューブ(立方体)をモチーフにした案、鋭利な矢印が空間を突き抜けるようなSF調の案、さらには「Play」の頭文字である三角形の再生マークを複雑に組み合わせた抽象画のような案まで、多様なアイデアが検討されていました。しかし、それらは「ゲーム機という枠組みに収まりすぎている」あるいは「ソニーが世に問う新しさが伝わりにくい」として却下されていったのです。
そして最終的に採用されたのが、PとSを大胆に錯視結合させた現行のフォルムでした。ここで注目すべきはプレステロゴの色の秘密です。初代ロゴを構成する「赤・黄・緑・青」の4原色は、一見するとおもちゃのような陽気さを感じさせますが、緻密な色彩心理学に基づいています。
坂本氏らは、鮮烈な情熱を表す赤、好奇心と知性を刺激する黄、安心感と広がりを与える緑、そしてソニーの先進技術や信頼性を象徴する青という基本色を選択しました。当時のゲーム市場はセガサターンとの激しい覇権争いの渦中にあり、落ち着いた色合いよりも、店頭のポスターやテレビCMで一瞬にして視覚を奪う強いエネルギーが不可欠でした。もし初代ロゴが無彩色や控えめな配色であったなら、1990年代半ばの熱狂的なハードウェア戦争で消費者の心をつかみきれなかった可能性さえ指摘されています。