雷電の強さを語る上で欠かせないのが、「あまりに強すぎるため、四十八手の一部の使用を禁じられた」という禁じ手伝説です。後世の講談や芝居では、「雷電は相撲会所(現在の日本相撲協会)から、張り手・突っ張り・閂(かんぬき)・鯖折りを禁じ手として指定された」と劇的に語られます。
公式の記録を調査すると、相撲会所が雷電ひとりを狙い撃ちにして公的なルール変更を行ったという公文書は残っていません。しかし、この伝説が完全な出鱈目かといえば、そうとも言い切れません。そこには「対戦相手の力士生命を守るための自主的な封印」という、優しさゆえの事実が存在しました。
約2メートル、170キロ近い巨体から繰り出される張り手は、並の力士であれば一撃で脳震盪を起こし、土俵の外まで吹き飛ぶ威力がありました。また、相手の両腕を外側から抱え込んで締め上げる「閂」に至っては、怪力無双の雷電が本気で力を込めれば、相手の腕の骨をいとも容易くへし折ってしまいます。実際に雷電の閂で負傷した力士が続出したため、相撲の好取組を成立させ、興行として相手力士を壊してしまわないよう、雷電自身や親方が「危険な技を使わずに勝つ」という配慮(紳士協定)を働かせていたのが真相です。
雷電が自筆で遺した詳細な日記『諸国相撲控帳』などを読み解くと、彼は粗暴な怪力男ではなく、教養が高く、酒と情けを愛する心優しい人物であったことが分かります。圧倒的な力を持つ者が、弱者を傷つけないために自らの力を抑制する――この崇高な精神性こそが、講談師たちによって「技を封印された伝説」へと昇華していったのです。