杉元が「物語構造上の囚われヒロイン」であるならば、ビジュアルと作中演出において完全に「お姫様」として扱われているのが、第七師団の貴公子・鯉登音之進少尉です。彼の姫扱いはファンの妄想の域を超え、もはや作中公認の様式美として昇華されています。
鯉登が姫と呼ばれる決定打となった名シーンは、単行本第17巻(アニメ第33話)に登場する樺太・流氷の上での「月島軍曹によるお姫様抱っこ」です。ロシア国境近くの猛吹雪と流氷地帯で、先走り海に落ちそうになる鯉登を、側近である月島基軍曹が軽々と両腕で抱きかかえて疾走する構図は、読者に絶大な衝撃を与えました。この抱っこは一度きりではなく、危険地帯からの離脱や暴走の制止時など、劇中で幾度となくリフレインされます。
鯉登少尉の姫属性を裏付ける背景には、以下の3つの決定的要素が存在します。
- 圧倒的な名門出身のバックボーン:海軍少将・鯉登平二郎の次男として過保護に育ち、薩摩弁を早口でまくし立てる育ちの良さと世間知らずな一面。
- 誘拐事件(ブロマイド事件)に見る「助けられ体質」:かつて狂言誘拐に遭った際、鶴見中尉に「白馬の騎士」のように救い出された原体験が、彼の精神的依存の根幹にある点。
- 月島軍曹という鉄壁の従者(ナイト)の存在:身の回りの世話から戦闘時のフォロー、精神的ブレーキに至るまで、実質的な保護者として常に背後に控えている関係性。
鶴見中尉のブロマイドに執着し、感情が昂ると猿叫(チェスト)をあげて暴走する甘えん坊な若様が、過酷な樺太縦断を経て自立した部隊長へと覚醒していくプロセスは、まさに「未熟な姫が真の統率者へと成長するビルドゥングスロマーン(成長譚)」の美しさを備えています。