農業関係者や土木技術者が最も恐れる現象の一つが、塩による土壌汚染と塩害被害です。土壌に大量のナトリウムイオン(Na+)と塩素イオン(Cl-)が蓄積すると、植物の根系は正常な浸透圧による水分吸収機能を完全に喪失します。それどころか、根から水分が土壌側へと吸い出される「逆浸透」が発生し、植えた植物はことごとく枯死します。
深刻なのは、土壌構造そのものの物理的破壊です。高濃度の塩分が浸透した土壌は、団粒構造(土の粒子が適度な隙間を持って結合し、通気性と保水性を保つ構造)が崩壊して微粒子が固結し、コンクリートのようにカチカチに硬直します。地中の有益な微生物やミミズなどの土壌動物も死滅するため、土壌の生態系は完全に沈黙します。
「数年放置して雨水で薄まれば元に戻るのではないか」という楽観論も現場の現実とはかけ離れています。降雨によって塩分が多少下層へ浸透することはあっても、乾燥時には毛細管現象によって地中深くの塩分が再び地表付近へと上昇して結晶化します。塩害を受けた土地を再び花壇や家庭菜園、天然芝の庭へと再生させるには、深さ30cmから50cm以上の土壌を完全に掘削・撤去し、高額な産業廃棄物として処分した上で新しい真砂土や客土を搬入する土壌入れ替え工事が必要となります。一般的な住宅の庭(約30〜50平方メートル)であっても、その改修費用は50万円から150万円規模に達することが珍しくありません。