back numberの楽曲の多くは清水依与吏の実体験や男性ならではの不器用な未練がベースになっているが、『幸せ』は徹底した女性目線(一人称「わたし」・語尾「〜なの」「〜ね」)で綴られている点が大きな特徴だ。これについて音楽誌の特集インタビューやラジオ番組において、清水自身が楽曲誕生の背景を語っている。
清水依与吏はかねてより「自分が経験した失恋の痛みや、情けない感情そのもの」を楽曲作りの原動力として公言してきた。『幸せ』の制作にあたっては、自身が過去に味わった「好きな人の視線の先に、自分以外の誰かがいた」という絶望的な無力感を、あえて女性の語り口に託すことで感情の解像度を極限まで研ぎ澄ませたと述懐している。男性視点のままだと執着や湿度の高い生々しさが勝ってしまうところを、繊細な女性のモノローグへと昇華させることで、「好きな人の幸せを願う凛とした美しさ」と「内側で血を流すような悲痛さ」のコントラストを鮮明に浮き彫りにした。
当時の制作陣やバンドメンバーも、デモ音源が提示された段階でその張り詰めた空気感に息を呑んだという。自身の体験という確固たる実話の種を、普遍的な人間の業へと翻訳する清水依与吏のソングライティング力が、この楽曲を単なるフィクション以上の生々しさで成立させている。