謀略論者が現在も「決定的な証拠隠蔽」として挙げるのが、現場トンネル内に残されていた白いフィアット・ウーノの塗料痕と、防犯カメラの映像記録に関する謎です。ネットの掲示板やSNSでは「現場の監視カメラはすべてMI6によって事前に電源を切られていた」「工作員が乗った謎の白い車がベンツに接触してトンネル壁に押し込んだ後、忽然と消えた」といった話が真実味を帯びて拡散されています。
しかし、捜査資料を丹念に精査すると、実態は都市伝説とは大きく異なります。
- 防犯カメラが作動していなかった理由:アルマ橋トンネル周辺の監視カメラは交通管制用であり、常時録画を行うセキュリティカメラではありませんでした。当時パリ市内で夜間録画機能を持っていたカメラは限定的であり、事故直前にカメラの向きが変えられたり電源が切られたりしたという事実はありません。
- 白いフィアットの正体:メルセデスの右リアライト付近に接触した塗料痕と破片から、1983〜1989年製の白いフィアット・ウーノが現場に存在していたことは確実です。フランス警察は何千台もの同型車を追跡し、当時現場付近を走行していたとされるベトナム系フランス人の警備員などを特定しましたが、意図的な衝突工作を行った形跡はなく、突発事故に巻き込まれてパニックに陥り逃走した一般車両である公算が極めて高いと結論づけられています。
不都合な空白が生じた際、人間はそこに「巨大な陰謀」を見出して辻褄を合わせようとします。白い車の未解決要素は、暗殺作戦の証拠ではなく、突発的な大事故が引き起こした偶発的な混乱の産物だったといえます。