映画『明日に向かって撃て』を語る上で欠かせないのが、映画史に残るあまりにも有名なラストシーンのストップモーション演出です。物語の終盤、アメリカでの追手から逃れて南米ボリビアへと渡ったブッチ・キャシディ(ポール・ニューマン)とサンダンス・キッド(ロバート・レッドフォード)は、現地の山村サン・ビセンテの小さな建物に立てこもります。
周囲を取り囲むのは、最新の小銃で完全武装した数百人規模のボリビア正規軍。二人はすでに重傷を負い、持ち弾も尽きかけている絶体絶命の危機にありました。しかし、部屋の中で肩を寄せ合う二人の会話は、極限状態とは思えないほど軽妙です。「次はオーストラリアへ行こう」「あそこなら英語も通じるし、馬も走っている」――。死の足音がすぐそこまで迫っているにもかかわらず、ブッチはいつものように突拍子もない新天地の夢を語り、相棒のサンダンスは呆れつつも笑みを返します。
「ひとつだけ聞いていいか? 表に騎兵隊が見えたような気がしたんだが」と問うサンダンスに対し、ブッチは「安心しろ、そんなはずはない」と軽口を叩きます。そして二人は拳銃を抜き、覚悟を決めて陽光あふれる屋外へと飛び出しました。彼らが銃を構えて前進した瞬間、画面は鮮やかなカラーから温かみのあるセピア色のストップモーションへと凍りつきます。直後、画面は動かないまま、無数の銃撃音と兵士たちの怒号だけが耳をつんざくように響き渡り、映画は静かに幕を下ろします。
なぜジョージ・ロイ・ヒル監督は、主人公二人が撃ち倒される残酷な瞬間をあえて映像化しなかったのか。当時のインタビュー記録や映画評論の分析が示す演出意図は極めて明快です。それは、「時代の波に敗れ去ったアウトローを、無惨な死体ではなく、自由を求めて走り続けた青春のアイコンとして永遠に映画の中に閉じ込める」ことでした。弾丸に倒れる生々しい肉体ではなく、明日を信じて飛び出した勇姿を静止画で固定することで、彼らの魂は死を超越し、観客の心の中で永遠に生き続けることになったのです。