来館者が一様に抱く最大の疑問が、「これほど巨大で質の高い展示を、なぜ誰でも無料で鑑賞できるのか」という点です。民間施設であれば一般料金として1,500円前後は設定されていても不思議ではない展示空間が、一切の料金を徴収せずに開放されています。
この驚くべき方針の背景には、北海道大学が脈々と受け継いできた「研究成果の社会還元」という確固たる理念が存在します。1999年に設置された同館は、1876年の札幌農学校開校以来、140年以上の歳月をかけて収集・蓄積されてきた400万点を超える学術標本を適切に保全し、次世代の研究者や広く一般市民へ開かれた形で提示することを第一義としています。観光ビジネスとしての収益性を追求するのではなく、最高学府の知的資産を共有する社会教育の場として位置づけられているからこそ、無料公開が維持されているのです。
さらに、訪れる人々を魅了するのは展示物だけではありません。建物自体が1929年(昭和4年)に竣工した旧理学部本館であり、昭和初期のアール・デコ調やネオ・ロマネスク様式を色濃く残す登録有形文化財です。飴色に磨かれた木製の手すり、吹き抜けのアインシュタイン・ドーム(旧貴賓室直下のドーム天井)など、建築遺産としての美しさそのものが特別な鑑賞体験を与えてくれます。