ファンの間で今も語り継がれるのが、深夜の店内で料理を口に含んだ瞬間の彼女の表情だ。空腹を満たすためだけではなく、傷ついた心を癒やすかのように咀嚼するあの演技。実はあのシーン、監督からは細かな指示が出されていなかったという。
「ただ、温かいものを食べてホッとしてほしい」。その抽象的なオーダーに対し、彼女は役のバックボーンをすべて背負った状態でカメラの前に立った。一口食べた瞬間に目元に浮かんだわずかな潤みは、演技を超えた本物の感情の漏れだしだった。
現場にいたスタッフ全員が息を呑み、テストなしの一発OKが出たという未公開のエピソードが、この名シーンの凄みを物語っている。