1970年代初頭の日本映画界は、大手映画会社が成人向け路線の強化や新機軸の模索に必死だった激動の時代です。その中で、松竹が放った起死回生の一撃こそが、1973年公開の映画『かまきり夫人』でした。企画の中心に据えられたのは、当時すでに「おひまなら来てね」「一週間に十日来い」などのミリオンセラーを放ち、NHK紅白歌合戦の常連でもあったトップ歌手の五月みどりです。
結婚と引退、そして離婚を経験した彼女が芸能界へ本格復帰するにあたり、選んだ道は誰もが予想しなかった「体当たりのエロス」でした。清純でコケティッシュな歌姫が、スクリーン上で男たちを弄び、破滅へ追い込む肉食系の妖婦を演じるというギャップは、メディアに怒涛の勢いで取り上げられます。映画館には連日長蛇の列ができ、興行的に大成功を収めただけでなく、「かまきり夫人」という言葉そのものが魔性の女を指す流行語として定着しました。
単なるポルノグラフィにとどまらず、女性の自立と性の解放という時代の空気を先取りしていた点も、熱狂を後押しした要因です。彼女の思い切った決断は、歌手から本格派の怪艶女優へと脱皮する決定打となり、五月みどりの代表作映画として永遠に名を刻むことになりました。