一の湯を取り巻く環境において、一般利用者が最も見落としがちなのが「都市計画と銭湯の事業継続性」の構造的課題です。
現在進められている西武新宿線の連続立体交差化事業は、踏切事故の解消や交通円滑化をもたらす一方で、沿線の土地利用に劇的な変化を強いています。駅前の一等地に広い敷地を構える木造銭湯は、固定資産税の負担、設備の老朽化更新費用、そして重油・ガス代の高騰という「三重苦」に直面しています。
「建て替え工事をしてデザイナーズ銭湯に生まれ変わるのではないか」という噂が度々持ち上がるのも、近隣の中野区や杉並区で老舗銭湯が次々と近代的なサウナ特化型施設へリニューアルして大成功を収めている事例(松本湯やえごた湯など)があるためです。しかし、宮造り建築の解体と新築ビルの建設には数億円規模の投資が必要であり、後継者問題を含めた慎重な経営判断が求められます。
現時点で一の湯は、大規模な建て替えによるビル化ではなく、「創業当時の木造宮造りの風情を可能な限り維持し、修繕を重ねながら守り抜く」という姿勢を貫いています。ネット上の「建て替え完了」「モダン銭湯化」といった書き込みは他店との混同である可能性が高く、訪問時は古き良き昭和の姿をそのまま期待して訪れるのが正解です。