結論から整理すると、「心より感謝申し上げます」を目上の人に対して使う行為は、マナー上まったく失礼ではありません。むしろ、取引先の重役や恩師、社内の役員など、深い敬意を示したい相手への文書やメールにおいて、最上級の誠意を届けるフォーマルな表現として定着しています。
それにもかかわらず、一部のビジネスマナー解説やSNS上で「感謝申し上げます 失礼な表現なのでは?」という懸念が囁かれる背景には、敬語構造の誤解が存在します。「感謝」という名詞に、「言う」の謙譲語である「申し上げる」、そして丁寧語の「ます」が組み合わさったこの言葉は、文化庁の『敬語の指針』に照らし合わせても非の打ち所がない謙譲表現(謙譲語Ⅰ)です。自分がへりくだることで相手を高める正当な敬語形式であるため、序列を重んじる相手であっても安心して使用できます。
ただし、類似表現である「心より感謝いたします」とのニュアンスの差異には注意が必要です。「いたす」は「する」の謙譲語(丁重語・謙譲語Ⅱ)であり、相手に対する直接的な働きかけというよりも自身の行為を改まった形で述べる性質を持ちます。そのため、相手に対して自発的な感謝の意をダイレクトに届ける文脈では、相手に向かうベクトルが強い「申し上げます」を選択するほうが、より丁寧で格調高い響きを与えられます。