水域で遺体が発見された際、警察の捜査班と法医解剖医は、事件性(他殺)、事故(不慮の転落)、自死の可能性を多角的な視点から精査します。
鑑識作業において極めて細心の注意が払われるのが、遺体に残された外傷の鑑別です。水流によって遺体が流される際、川底の岩石や護岸のコンクリート、航行する船舶のスクリューと接触することで多数の死後損傷が生じます。法医学者は、傷口周辺の組織に出血(生活反応)があるかどうかを顕微鏡レベルで確認し、生前に受けた打撲・防御創(トラブルによる外傷)か、死後の漂流に伴う損傷かを明確に区別します。
死後経過時間(PMI: Post-Mortem Interval)の推定には、水温と死後変化の相関データが用いられます。皮膚の剥離度合い、角膜の混濁度、関節の死後硬直の消失状況、さらには遺体に付着した藻類の発育度や水中昆虫・甲殻類の食害状況などが複合的な判断材料となります。
さらに、法中毒学的な薬物・アルコールスクリーニング検査も必須工程です。睡眠薬や向精神薬、高濃度のアルコールが検出された場合、意識障害による事故死や、薬物を用いた殺害後に水へ投棄された可能性など、事件の全容解明に向けた重大な証拠となります。