『SLAM DUNK』における屈指の名場面として語り継がれる三井寿の更生ですが、作者・井上雄彦氏の証言や当時の制作秘話によると、この展開は当初の構想には存在しなかった事実が知られています。
当初、三井寿は単に体育館での暴力沙汰を引き起こす「ただの不良の脇役」として配置されていました。しかし、陰惨になりかねない乱闘劇を描き進めるなかで、井上氏自身の筆が乗り、三井というキャラクターの背後にあったはずの哀愁やドラマを掘り下げた結果、「実は元中学MVPのバスケットマンだった」という後付けの設定が現場の熱量から生み出されたのです。
偶然から始まったキャラクター造形でありながら、体育館の扉を開けて入ってきた安西光義監督を目にした瞬間、三井の張り詰めていた糸が切れ、前歯の抜けた痛々しい顔で涙をこぼす「安西先生……!! バスケがしたいです……」という言葉が紡ぎ出されました。この瞬間、単なる暴力事件は「失われた青春を取り戻す再生物語」へと奇跡的な舵切りを果たしました。
そしてこの名セリフは、後のスラムダンク伏線回収として見事に機能していきます。中学時代、諦めかけた三井に安西監督がかけた「あきらめたらそこで試合終了ですよ」という言葉。この教訓は、後に山王戦で体力の限界を超え、腕すら上がらなくなった三井が「静かにしろい この音が……オレを甦らせる 何度でもよ」と3ポイントを沈め続ける不屈のメンタリティへと真っ直ぐに繋がっていったのです。