観客が物語序盤から最も引き込まれる謎が、「なぜビクターはプランターズのピーナッツ缶詰を肌身離さず守り続けているのか」という点です。空港警備局長のディクソンから中身を明かすよう迫られても頑なに拒み続けたその缶詰には、胸を打つ親子の絆が詰まっていました。
缶詰の中身は「ジャズの巨匠57人のサイン」
ビクターの亡き父は熱狂的なジャズファンでした。1958年に雑誌『エスクァイア』が企画した有名な集合写真「A Great Day in Harlem(ハーレムの素晴らしい一日)」に感銘を受け、そこに写る57名のジャズ・ミュージシャン全員からサインを集めることを生涯の夢にしていました。
父は40年もの歳月をかけて手紙を送り続け、56人分のサインを収集したものの、テナーサックス奏者のベニー・ゴルソン(Benny Golson)のサインだけを手に入れられないまま他界します。ビクターがニューヨークへやってきた真の目的は、最後に残された1人のサインをもらい、父との約束を果たすことでした。あの黄色い缶詰は、父の40年間の夢と遺志が封じ込められた宝箱だったのです。
映画の結末:友情に支えられた約束の成就
祖国クラコウジアの内戦が終結した日、冷酷なディクソン局長はビクターを即刻送還しようと圧力をかけます。しかし、ビクターの人柄に触れ、彼を家族のように慕うようになった空港スタッフたち――清掃員のグプタ、荷物係のジョー、入国審査官のドロレスらが団結して彼を後押しします。
ビクターは警察の制止を振り切って堂々とマンハッタンの街へと足を踏み入れます。向かった先は名門ホテル内のジャズクラブ。昼間のリハーサル中だったベニー・ゴルソン本人(※映画には本人がカメオ出演)に直接会い、父の写真へサインをもらうことに成功します。すべての目的を果たしたビクターは、雪降るニューヨークの街頭でイエローキャブに乗り込み、運転手に「家に帰る(I am going home)」と告げて物語は幕を閉じます。