「どちらを使っても大差ないだろう」と安易に代用してしまうと、料理の仕上がりに明らかな綻びが生じます。美味しさを左右する決定打は、米酢と穀物酢の使い分けを「加熱の有無」と「主原料との調和」で判断することです。
まず、火を入れずにそのまま口へ運ぶ料理、とりわけ酢の物に向く酢は間違いなく米酢です。キュウリとタコ、ワカメの酢の物などを穀物酢で作ると、口に含んだ瞬間に喉へ突き刺さるような刺激が走り、子どもや酸味が苦手な人が咽せてしまう主因になります。米酢を使えば、米本来のまろやかな甘みが素材の水分と自然に馴染み、出汁と調和した上質な料亭の味へと昇華します。
一方で、加熱調理時の風味を考慮すると力関係は逆転します。酢豚、手羽元の黒酢風さっぱり煮、アジの南蛮漬けのように、強火で加熱する炒め物や長時間の煮込み料理では、熱によって酢の刺激臭(揮発成分)が適度に飛びます。ここで高価な純米酢を使うと、熱によって米特有の繊細な吟醸香が変質し、やや重たくクドい後味が残ってしまうリスクがあります。熱を加える料理には、加熱後も嫌味なクセを残さず、肉を柔らかくしながらさっぱりとキレよく仕上げてくれる穀物酢のほうが圧倒的に相性が良いのです。