藤原啓治氏の芝居の魅力は、気だるげで色気のある低音ボイスの中に、どこか哀愁と優しさを滲ませる表現力にありました。彼が演じた名キャラクターたちは、今も多くの人々の記憶に刻まれています。
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)における『アイアンマン』のトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)の吹き替えは、その最たる例です。傲慢で皮肉屋の天才科学者が、戦いを通じて英雄へと成長していくグラデーションを、日本語吹き替えで見事に演じきり、映画ファンから絶大な支持を集めました。
さらに、『鋼の錬金術師』のマース・ヒューズ中佐、『交響詩篇エウレカセブン』のホランド・ノヴァク、『HUNTER×HUNTER』のレノリオ、『うたわれるもの 偽りの仮面』のハクなど、演じた役柄の幅広さは驚異的です。二枚目半のコミカルなキャラクターから冷徹な悪役、情の厚い兄貴分まで、どの役にも藤原氏独自の「生々しい人間味」が宿っていました。
特筆すべきは、2024年に発売されたゲーム『FINAL FANTASY VII REBIRTH』におけるレノ役です。開発陣は藤原氏の過去のアーカイブ音声を使用し、新たな代役を立てずに作品内に登場させるという異例の敬意を示しました。後任を急がず、遺された声の存在を尊重したスクウェア・エニックスの姿勢に、世界中のゲーマーが胸を打たれました。