ここで大きな疑問が浮かぶ。これほど規制が厳しくなった時代に、一体誰がこれらの名刺を印刷しているのか。都内の老舗印刷業者に取材を試みると、かつての過熱した現場と現在の冷え切った裏側が浮かび上がってきた。「昔は極道の街として知られるエリアの印刷店なら、どこも当たり前に受けていました。金箔押しや凸版印刷など、特殊な技法を使うため単価が高く、貴重な上得意客だったのは事実です」と店主は回想する。
しかし、暴排条例の全域施行により、印刷業界を取り巻くコンプライアンスは一変した。現在、組関係者の名刺受注は「密接交際者」と判定されるリスクを直接伴う。多くの一般業者は受注を即座に断る体制を整えた。その結果、名刺の制作ルートはアングラ化し、一部の特殊な海外業者や、自家用の高性能プリンターを用いた内製化へと追いやられている。裏社会の象徴だったあの上質な手触りと漆黒の輝きは、印刷業界の表舞台から完全に姿を消した。