元刑事がタクシー運転手となり、乗客が持ち込む事件を解決していく『タクシードライバーの推理日誌』も、忘れがたい傑作の一つだ。深夜の東京や地方都市を舞台に、ハンドルを握りながら人々の悲喜こもごもを見つめる主人公の視点は、当時の社会情勢や人々の孤独を過不足なく映し出していた。
華やかな旅情サスペンスの側面を持ちながらも、事件の背景にあるのは常に貧困や愛憎、理不尽な運命に翻弄される庶民の姿だ。スピード感やスタイリッシュさを追求する現代作品とは対極にある、じっくりと人情を描き切る泥臭いドラマツルギー。だからこそ、今観ても胸を締め付けられるような余韻が残る。