ジャンルの枠組みを軽々と踏み越える点こそ、本作最大の武器だろう。骨格にあるのは人間の精神が崩壊していく過程を冷ややかに見つめるサイコスリラーの構造だ。しかし物語が進行するにつれ、時間軸の歪みや記憶の改変といった要素が侵食し、観客は気付けば先鋭的なSF映画の迷宮へと放り込まれる。
この特異な世界観を成立させているのが、徹底した現場主義に基づく映像制作のアプローチである。デジタル全盛の時代にあえて16ミリフィルムと最新の光学レンズを組み合わせ、光と影の粒立ちを生々しく定着させた。CGに頼らない実物大の巨大セットが生み出す圧迫感。被写体の呼吸音や皮膚の微細な震えまでを捕らえた音響設計が、鑑賞体験を暴力的なまでの没入感へと引き上げる。