志賀からの批判に黙っていられなかった太宰は、晩年の連載エッセイ『如自我聞』にて猛烈な反撃に出る。「うぬぼれている」「弱者をいたぶる貴族趣味」と、志賀の人間性と文学的権威を直接的に攻め立てた。その舌鋒は容赦がなく、文壇関係者を大いに震撼させた。
同時に書き進められていた遺作『人間失格』にも、その影は色濃く投影されている。主人公・大庭葉蔵が抱く「人間に対する恐怖」と「道化の仮面」は、権威的な文壇や志賀的な「正しさ」に対する太宰流の抵抗の表明でもあった。
傷つきやすい自尊心を守るためにペンを剣に変えた太宰。しかし、その激しい批判の裏側には、最後まで「神様」に認められたかったという切ないまでの承認欲求が透けて見える。