全27曲の中でも「ショパンエチュード最難関」としてピアニストの間で一致して挙げられるのが、Op.10-1、Op.10-2、Op.25-6、そして通称「木枯らし」と呼ばれるOp.25-11の4曲です。これらは単なる指の速さだけでなく、人間の手の骨格構造そのものに負荷をかける過酷なメカニズムを有しています。
まず、曲集の冒頭を飾る「Op.10-1」は、右手1本で1オクターブから10度、ときにはそれ以上の音程幅を猛スピードで駆け上がるアルペジオです。巨匠アルフレート・コルトーが自身の注釈版(コルトー版)で「この練習曲は、手の柔軟な拡張と収縮を完璧にマスターしていなければ、瞬く間に前腕を麻痺させる」と指摘した通り、物理的な手の大きさに頼った打鍵を行うと腕の筋肉が過緊張を起こします。手首を支点とした流れるような重心移動ができない限り、弾き切ることすら困難です。
続く「Op.10-2」は、ピアノ教育現場で「生理的悪魔」とも称される難関です。第1指(親指)と第2指(人差し指)で和音を刻みながら、解剖学的に腱が結合していて独立して動かしにくい第3・4・5指のみで半音階のレガートを奏でます。脱力が不十分なまま反復練習を重ねた結果、腱鞘炎を発症する音大生が最も多い曲の一つとして指導者の間で警戒されています。
そして重音の頂点である「Op.25-6」は、右手3度の連続トリルと半音階走句が全編にわたって展開されます。2本の指の着地タイミングが100分の1秒でも狂えば汚い濁りとなり、軽やかさを保ちながら均質な音量を維持するには、極限まで研ぎ澄まされたコントロールが求められます。
コンサートの定番でもある「木枯らしのエチュード(Op.25-11)」は、冒頭の静謐な序奏の直後、猛烈な吹雪のようなパッセージが右手全音域を襲います。木枯らしのエチュードの難易度を押し上げている最大の要素は「持続力」です。難所が数小節で終わる曲とは異なり、フォルテシモの豪快な跳躍と急速な下降パッセージが約4分間にわたって途切れなく続きます。打鍵のエネルギーを腕の重さから効率よく鍵盤へ伝える脱力メソッドが身についていなければ、後半で確実に握力を失います。