なぜバラエティやドラマが1〜2週間の無料見逃し配信を展開する中、Mステだけが頑なにアーカイブ化を見送っているのか。その根底には、音楽著作権・著作隣接権・肖像権の多重構造という業界固有の重いハードルが存在します。
一般的なトーク番組と異なり、生放送の音楽番組には以下の権利者が1つの画面内に複雑に交錯しています。
- 作詞家・作曲家・音楽出版社:楽曲そのものの著作権(演奏権・公衆送信権)の許諾
- レコード会社(原盤保有者):音源の原盤権、二次使用料の分配
- 出演アーティスト・所属事務所:実演家の権利(著作隣接権)およびパブリシティ権・肖像権
- バックバンド・ダンサー・舞台演出家:各実演に対する包括的な権利処理
1回の放送に6〜8組前後のアーティストが出演し、それぞれ異なる大手芸能事務所や国内外のレーベルに所属しています。仮に見逃し配信を恒常化する場合、「出演者全員および権利保有者全員からの完全な許諾」を取り付けた上で、ネット配信に伴うロイヤリティ配分契約を毎週個別に結び直さなければなりません。
1組でも海外アーティストや契約条件の厳しいレーベルが「Web配信不可」と判断すれば、そのパートだけ画面を真っ黒にする(いわゆる「権利落ちの蓋かぶせ」)か、番組全体の配信を断念せざるを得ません。番組のクオリティを担保しつつ莫大な権利処理コストと労力を回収するビジネスモデルが成立しにくいため、テレビ朝日は「生放送のリアルタイム視聴に特化する」という戦略を維持し続けています。