日本の都市伝説史において、社会現象にまで発展した怪異たちの発祥には明確な時代背景が存在します。単なる子供の作り話にとどまらず、警察が出動する騒ぎにまで発展した代表格が「口裂け女」です。
口裂け女の元ネタと真相を巡っては諸説ありますが、ブームの発火点は1979年初頭の岐阜県とされています。当時、美濃加茂市周辺の小学生の間で噂が広がり、瞬く間に全国へ飛び火しました。背景には、激化する中学受験戦争による「夜間塾通いの子どもの増加」や、新興住宅地の防犯不安があったと分析されています。ポマードの匂いを嫌う、べっこう飴を投げると逃げられるといった具体的な対処法がセットで流通した点も、小学生ネットワークの伝播力を象徴していました。
また、固定電話の普及期に定着したのが「メリーさん」です。メリーさんの電話の由来は、アメリカの有名なフォークロア「ベビーシッターと上の階の男」と、当時大流行していたタカラ(現タカラトミー)の「リカちゃん電話」のシステムが融合したものと見られています。「私、今あなたの後ろにいるの」という段階的な接近演出は、位置情報が不可視だったアナログ電話時代の恐怖を巧みに突いた構造でした。
学校を舞台にした怪異の筆頭であるトイレの花子さん発祥の地については、昭和20年代から30年代にかけて岩手県や青森県で語られていた「便所の岩子さん」や「赤い紙、青い紙」の民話が原型です。高度経済成長期に木造校舎から鉄筋コンクリート校舎へと建て替えが進む過程で、薄暗い汲み取り式便所の記憶が「3番目の個室」という密室ホラーへと昇華していきました。
下半身を失った姿で高速移動するテケテケ誕生の経緯には、北海道の名寄市で起きたとされる踏切事故の伝承「カシマさん(仮名手本忠臣蔵やカシマレイコ伝説)」の派生形という側面があります。肘を使って「テケテケ」と音を立てて追いかけてくるという聴覚的恐怖は、冬の北海道の凍結路面や線路のイメージと結びつき、独自のモンスター像として定着しました。