インターネット上で「ピンクの深海魚 ぶよぶよ」と検索すると、必ず登場するのがニュウドウカジカ(通称:ブロッブフィッシュ)です。過去に「世界で最も醜い生物」の称号を冠されたこともあるこの魚は、鼻の大きな中年男性のような脱力感あふれるピンク色の顔で一世を風靡しました。
しかし、「ニュウドウカジカは本来あのような崩れた姿で海を泳いでいるわけではない」という事実は、広く知られていません。彼らの生息域は水深600〜2,800メートル前後の深海であり、体内には常に数十気圧から数百気圧という猛烈な水圧がかかっています。
深海で生き残るため、ニュウドウカジカは以下のような驚くべき身体構造へと進化を遂げました。
- 浮き袋を捨て、水よりわずかに密度の低いゼラチン質で体を構成:浮き袋があると急激な水圧変化で破裂するため、全身を高水分のゲル状組織で満たし、エネルギーを使わずに海底直上を浮遊します。
- 骨密度の極限までの軽量化:カルシウムを沈着させる骨格を極限まで薄くし、柔らかい軟骨状の骨で体を支えています。
- 強大な水圧による形状維持:深海にいる間は全方位からの高水圧によって筋肉とゼラチン層がしっかりと引き締まり、実際には普通のカジカ類に近い精悍な魚のフォルムを保っています。
トロール網などで急速に海上に引き揚げられると、体内の組織を周囲から圧縮していた強烈な水圧が一気に「1気圧」まで低下します。その結果、急激な減圧によって軟部組織が膨張・断裂し、皮膚が重力に耐えきれず垂れ下がって、あの「ぶよぶよのピンクの顔」になってしまうのです。つまり、あの姿は極限環境に適応した生物が地上で晒す「減圧事故の痕跡」であり、本来の海中での姿とは大きく異なります。