ネット上の掲示板やSNSで定期的に浮上するのが、「麺に芯が残っていて固い。これって生煮えの失敗作じゃないのか?」という旅行者からの書き込みや、それに端を発する小規模な炎上劇です。しかし、これこそが山本屋本店の真髄であり、最大の誤解といえます。
山本屋本店の麺は、小麦粉と水だけで打たれています。一般的なうどんは生地の弾力を出すために食塩水を加えますが、味噌煮込みうどん専用の麺に塩は一切使いません。塩分を含んだ麺を濃厚な味噌だしで直煮すると、浸透圧と塩分の溶出によって出汁の塩分濃度が跳ね上がり、塩辛くて飲めなくなってしまうためです。塩を抜いた麺は茹でても柔らかくならず、強力なコシと中心部に白い「芯」を残す独特のアルデンテ状態に仕上がります。つまり、あの噛みごたえは計算し尽くされた職人技の結晶なのです。
もうひとつの噂の真相が、「山本屋本店」と「山本屋総本家」の仁義なき関係性です。観光客の多くが同一チェーンの別店舗だと誤解していますが、両者は大正時代にルーツを同じくしながらも、現在は完全に別資本・別経営の別会社です。白菜や玉ねぎの浅漬けが大きな鉢で供され、濃厚な鰹出汁と硬質な麺で攻めるのが「本店」。一方、きしめんや一般的な柔らかさのうどんも揃え、ややマイルドな味噌で幅広い客層を迎えるのが「総本家」です。栄本町通店が属する「山本屋本店」は、より純度の高い味噌煮込み専門店としてのストロングスタイルを貫いています。