三島の憲法論や政治行動を解読する上で欠かせないのが、彼が昭和35年に発表した金字塔的作品、小説『憂国』である。二・二六事件をモチーフに、皇道派の青年将校と若い妻の壮絶な愛と自決を描いたこの作品には、純粋な信念のために命を捧げる美学が凝縮されていた。
三島にとって憲法改正とは、単なる法的テクニックや政党間の政策的取引の問題ではなかった。言葉による表現の限界を感じ取った文豪が、みずからの肉体と思想を極限まで一致させようとした行動美学の延長線上に位置していたのだ。法論理の矛盾を突き、命を賭して理念を貫く姿勢は、文学作品と政治的行動が不可分に結びついた結果であり、現代の政治論議が失ってしまった強烈な当事者意識を突きつけている。