回文の起源を遡ると、遠く古代ギリシャ・ローマ時代や日本の古代・中世文学に行き着きます。言語の形式美として愛されてきた文化的背景には、洋の東西を問わない普遍的な魅力があります。
日本における回文の歴史は極めて古く、平安時代後期から鎌倉時代にかけて、上から読んでも下から読んでも同じ音になる和歌「廻文歌(かいぶんか)」として貴族階級の間で親しまれていました。室町時代から江戸時代にかけては、正月の初夢を見る際に良い夢を見るための縁起担ぎとして、以下の有名な廻文歌を宝船の絵に書き添え、枕の下に敷いて眠る風習が庶民の間に定着しました。
「長き夜の 遠の眠りの 皆目覚め 波乗り船の 音の良きかな」
(なかきよの とおのねぶりの みなめざめ なみのりふねの おとのよきかな)
一方、西洋言語における回文は「パリンドローム(Palindrome)」と呼ばれ、古代ギリシャ語の「再び(palin)」と「走る・進む(dromos)」を語源としています。アルファベット単位で綴りを反転させるため、表音文字の並びで意味を成立させる高度な構築力が求められます。
- Madam, I'm Adam.(マダム、私はアダムです:英語圏で最も有名な自己紹介回文)
- Was it a car or a cat I saw?(私が見たのは車だったか、それとも猫だったか?)
- A man, a plan, a canal: Panama!(一人の男、一つの計画、一本の運河、パナマ!:パナマ運河建設を称えた歴史的名作)