都心の超一等地を走る巡回バスが運賃ゼロを実現できる背景には、慈善事業ではなく、緻密に設計されたエリアマネジメントの経済合理性が存在します。
丸の内シャトルの運行主体は、観光バスや路線バスの大手である「日の丸自動車興業」ですが、その運行費用の全額を支えているのは大手町・丸の内・有楽町(大丸有)地区の地権者や企業で構成される「一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会」や「リガーレ(大丸有エリアマネジメント協会)」、そして周辺に本社・拠点を構える多数の協賛スポンサー企業です。
公共交通を走らせるとなれば、燃料費、車両減価償却費、ドライバーの人件費など年間数億円規模の運行コストが発生します。それでも地元企業が資金を拠出し続ける理由は主に3つあります。
第1に、街全体の回遊性向上と経済波及効果です。大丸有地区は南北に長く、大手町の北端から有楽町の南端までは約2キロメートル以上離れています。この距離をシームレスにつなぐ無料モビリティが存在することで、オフィスワーカーが昼休みに少し離れた商業施設へランチに出かけたり、休日に丸ビルから日比谷・有楽町方面へショッピング客が流れたりする導線が生まれます。結果としてエリア内の商業テナントの売上増につながり、ビル全体の資産価値向上に直結します。
第2に、企業の社会的責任(CSR)および環境経営のPR効果です。丸の内シャトルでは、低公害なハイブリッドバスや環境負荷の少ない最新EVバスが積極導入されています。車内モニターや停留所サインには協賛企業名が掲出され、環境配慮型まちづくりの旗手としてのブランドイメージを強固に構築できます。
都市経済学の視点から見れば、丸の内シャトルは「乗車運賃で稼ぐ単体ビジネス」ではなく、「エリア全体の地価と消費を底上げするためのインフラ投資」として完全に成立しているのです。