昭和32年1月13日。東京・浅草にある劇場は、溢れんばかりの観客の熱気に包まれていた。松竹株式会社が主催する名物イベント「浅草国際劇場新春公演」のステージ上には、当時十代後半にして既に国民的スターの地位を確立していた美空ひばりの姿があった。超満員の客席からは割れんばかりの拍手が送られ、彼女の歌声がホール全体を包み込んでいた。
だが、その華やかなステージは一瞬にして地獄絵図へと変わる。突如、客席前列から一人の少女がステージに向かって駆け寄り、手にしていた瓶から透明な液体を美空ひばりに向けて浴びせたのだ。激しい皮膚の焼ける臭いと、あまりの激痛に響き渡る叫び声。その液体は、濃塩酸であった。