山口洋子の足跡を振り返ると、その多才ぶりは戦後日本のエンターテインメント史でも突出しています。名古屋市出身の彼女は、東宝のニューフェイスを経て銀座の夜の街に飛び込み、弱冠手腕を発揮してクラブ「姫」をオープン。三島由紀夫、吉行淳之介、石原慎太郎、野坂昭如といった一流の作家や映画人が夜な夜な集う伝説のサロンを作り上げました。
客との知的な丁々発止の会話や人間模様を観察する中で研ぎ澄まされた言語感覚は、やがて作詞家としての才能へと結実します。平尾昌晃とのコンビで手掛けた五木ひろしの『よこはま・たそがれ』の大ヒットを皮切りに、日本レコード大賞を受賞した『夜空』、中条きよしの『うそ』、石原裕次郎の『ブランデーグラス』など、昭和歌謡を代表する不朽の名曲を次々と世に送り出しました。さらに1985年には、長年の執筆活動が実を結び、短編小説集『演歌の友』『老梅』で第93回直木賞を受賞。夜の街のトップから、ミリオンセラー作詞家、そして最高峰の文学賞作家へと至る軌跡は、まさに唯一無二でした。