極小の領土の中で、実際の日常生活や行政機構はどのように機能しているのでしょうか。現地関係者への取材や公開資料から、一般にはあまり知られていない驚くべき内情が浮かび上がってきます。
最も特徴的なのは、バチカン市国のパスポートと国籍付与の仕組みです。バチカンには「出生地主義」や「血統主義」による永住国籍は存在しません。国籍を持つことができるのは、ローマ教皇をはじめ、枢機卿、各国の教皇大使(外交官)、そして教皇を護衛するスイス衛兵など、「市国内で特定の職務に就いている期間中」に限られます。職務を解任または退職した時点で国籍は失われ、元の出身国(主にイタリアやスイスなど)の国籍へと戻る運用が徹底されています。
日常生活の基盤にもユニークな仕組みが整っています。
- 独自の経済圏:公衆電話網や郵便局(バチカン郵便はイタリア本土より配達が正確で早いとローマ市民にも評判)、独自のラジオ局、日刊紙『オッセルヴァトーレ・ロマーノ』を発行しています。
- 免税のショッピングセンター:市国内には関係者専用のスーパーマーケットやガソリンスタンドが存在し、イタリアの付加価値税(VAT)が免除されるため、生活物資を安価に購入できます。利用には専用の身分証が必要です。
- 警察と防衛:教皇の身辺警護は伝統的な制服をまとったスイス衛兵隊が担い、市国内の治安維持や交通整理はバチカン憲兵隊が担当しています。重大な犯罪が発生した場合は、ラテラノ条約の規定に基づきイタリア警察に捜査や裁判が委ねられます。