もう一人の名脇役である「カルロス」。情熱的でありながらどこか抜けたキャラクターの彼とともに披露されるのが、世界的特許級の芸当「時間差の腹話術」だ。カルロスが口をパクパクと動かした数秒後、遅れて歌声が客席に届く。人間の聴覚と視覚の認知バイアスを極限まで突いたこのパフォーマンスは、何度見ても脳の処理が追いつかない。
「声が遅れて……聴こえるよ」。あの伝説的なフレーズは、科学的にも驚異的な声帯のコントロール技術に裏打ちされている。喉仏を完全に制圧し、呼気のスピードと舌の位置を瞬間的に固定しながら、腹式呼吸の圧力だけで母音の音色を飛ばす。カルロスの表情筋の動きと、遅延して響く発声のタイミングには、0.1秒の狂いも許されない。
このタイムラグ芸を進化させ、複数の人形が同時に会話するポリフォニックな掛け合いへと発展させた。二つの声、二つの人格、そしていっこく堂自身の生声。三者が入り乱れる会話劇は、腹話術の概念を完全に解体し、音響芸術の領域へと昇華させた。