紀平梨花に対して「病気なのではないか」という疑念がネット上で急速に膨らんだ最大の要因は、競技からの離脱期間が数シーズンに及ぶ異例の長期休養となったことにあります。フィギュアスケート界において、靭帯損傷や一般的な骨折であれば数か月から長くとも1シーズン程度で氷上練習を再開するケースが大半です。ところが彼女の場合、2021年の夏に痛みを訴えて以降、復帰と再休養を繰り返しながら何年もトップ戦線から遠ざかることになりました。
この異例の空白期間に対し、詳細な負傷メカニズムを知らない一般のファンやネットユーザーの間で、以下のような誤った推測が連鎖的に発生しました。
第一に、「激痩せ」や「体型変化」を理由とした摂食障害などの内科的疾患説です。フィギュアスケート女子は過度な体重管理を強いられる競技特性があり、思春期以降の体型変化や摂食障害に苦しむ選手が少なくありません。氷上から姿を消した時期の写真を見た一部のユーザーが、過敏に「内科の病気」「栄養障害」と結びつけてネット掲示板や知恵袋に書き込んだことが発端となりました。
第二に、過去に報道された「耳の不調」や「めまい」といった体調不良の記憶です。紀平は過去のシニア参戦期に、過密な遠征日程や気圧の変化による中耳炎、自律神経の乱れからくる体調不良を明かしたことがありました。これらが断片的な記憶として結びつき、「慢性的な持病を抱えて滑れないのではないか」という誤認を補強したのです。
しかし、本人の公式発表や担当ドクターの所見において、内科的な大病や慢性的疾患が活動休止の主因として発表された事実は一度もありません。病気という噂の正体は、目に見えない足関節内部の重篤な構造的損傷が引き起こした長期休養に対する、世間の早合点と情報不足による誤解でした。