患者が外来で語る痛みのオノマトペ(擬音・擬態語)は、医師にとって診断を導く貴重な手がかりです。痛みの性質を正しく言語化することは、適切な治療への最短距離となります。
「針で刺されたようにチクチク痛む」「電気が走るようにピリッとする」と表現される場合、息を吸うと胸が痛いちくちくとした痛みの正体として頻度が高いのは肋間神経痛症状です。肋骨に沿って走る神経が、長時間のデスクワークによる姿勢不良、筋肉のコリ、冷え、あるいは過度なストレスによって圧迫・刺激されることで発生します。皮膚表面に近い場所で痛みが感じられ、「ここを押すと明らかに痛い」という圧痛点が存在するのが特徴です。数秒から数分で痛みが消失することも多いですが、帯状疱疹の初期段階として皮膚に発疹が出る数日前からチクチクとした神経痛が先行することもあるため注意を要します。
これに対し、息を吸うと胸がズキズキ痛む理由として警戒すべきは、胸壁の炎症や骨・筋肉の損傷です。咳やくしゃみ、深呼吸に合わせてズキズキと痛みが響く場合、転倒や打撲の心当たりがなくても、激しい咳の連発やゴルフのスイングなどが引き金となって生じる肋骨骨折ヒビ症状が疑われます。肋骨は非常に繊細な骨であり、本人が気づかないうちに微細な亀裂(ヒビ)が入っている事例は日常診療で頻繁に遭遇します。また、肺を覆う胸膜に炎症が及ぶ胸膜炎でも、呼吸のたびに胸膜同士が擦れ合い、吸気時にズキズキとした鋭い痛みが増悪します。
最も厳重な警戒を要するのが、「胸を巨大な万力で締め付けられるような圧迫感」「重い岩を乗せられたような窒息感」です。このタイプの痛みは神経痛や骨折ではほぼ見られず、虚血性心疾患の典型的な徴候です。胸が焼けるような感覚を伴う場合は、胃酸が食道へ逆流して粘膜を刺激する逆流性食道炎胸の違和感であることも多いですが、心臓発作と症状が酷似することがあるため自己判断は危険です。