インターネット上の育児掲示板やSNSでは、時として極めて危険な誤解が拡散されています。その最たるものが、「出血していない、あるいは少量だから胎盤剥離ではない」という思い込みです。
剥離によって生じた血液が子宮頸管を通って腟外へ流出する「外出血型」は、妊婦自身も異常に気づきやすく、早期受診につながりやすい特徴があります。一方で極めて予後が悪いのは、剥離部が胎盤の中央にとどまり、胎嚢と子宮壁の間に血液が密閉される「内出血型(隠匿性剥離)」です。
内出血型では、体外への出血はゼロか、あるいは微量のおりもの程度にとどまります。しかし子宮内では大量出血が続いており、子宮壁の筋繊維が引き裂かれ、胎児は急激な酸素欠乏に陥ります。外見上の出血量と子宮内部の剥離面積は全く比例しないという事実は、すべてのプレママ・プレパパが脳裏に焼き付けておくべき鉄則です。
また、「妊娠高血圧症候群でなければ剥離は起きない」という言説も明らかな誤りです。発症者の約半数は、健診で血圧異常を指摘されていない正常血圧の妊婦から突如として発生しています。「自分は血圧が正常だから関係ない」という慢心は、手遅れを招く要因となり得ます。
【プロの結論】救急車を呼ぶべき人・迷わず産院へ直行すべき境界線
産科救急の専門的知見から提示する、異常事態における明確な判断基準です。「病院に電話して何事もなければ恥ずかしい」という心理的抵抗感(正常性バイアス)を即座に破棄してください。
【即座に救急車(119番)を要請すべき絶対的基準】
- 休む間もなく続く激しい下腹部痛があり、お腹全体が板のように硬く強張っている。
- 突然の激痛とともに、意識が遠のくような感覚、めまい、冷や汗、呼吸苦がある。
- 持続的な痛みに伴い、これまで活発だった胎動が完全に消失した。
- 大量の鮮血が突然噴出し、止まらない。
【自家用車やタクシーで迷わず産院へ直行・即時連絡すべき基準】
- 痛みの強弱にかかわらず、下腹部の張りが30分以上全く緩まない。
- 生理初日のような暗赤色〜茶褐色の出血が持続している。
- 転倒してお腹を強く打った後、痛みや出血がなくても数時間が経過している。
「何事もなければ、それで良い」のです。産科医療機関は、空振り(結果として異常なし)を歓迎します。自己判断で様子を見る1時間は、母児の未来を致命的に左右します。