並木路子が歌った「リンゴの唄」がなぜこれほど日本人の心に刻まれているのか、その歌詞の意味と時代背景を読み解くと、美空ひばりが後年にこの楽曲を大切に歌い継いだ理由が見えてきます。
「赤いリンゴに 口びるよせて だまって見ている 青い空」というサトウハチローによる詩は、極めて平易でありながら、戦禍で肉親や家を失った人々の痛ましさを一切直接的には描写していません。敗戦の暗闇の中、検閲の目を潜り抜けつつ「言葉にできない悲しみ」を抱える人々に、ただただ青空を見上げさせる優しさが込められていました。
美空ひばりが後年のアルバムでこの曲をカバーした際、原曲の素朴な軽快さに加えて、昭和という激動の時代を生き抜いてきた者だけが醸し出せる「慈愛とノスタルジー」が歌声に吹き込まれました。単なる懐メロの再現にとどまらず、戦後日本の出発点に対する深い敬意がその歌唱から伝わってきます。