安価な海鮮料理を語る上で避けて通れないのが、いわゆる「代用魚」や「不当表示」をめぐる問題です。かつて昭和から平成初期にかけては、マダイの代わりに「テラピア(イズミダイ)」が、スズキの代わりに「ナイルパーチ」が日常的に供されていた時代がありました。しかし、2026年現在の法規制下における実態は、昔ながらのイメージとは大きく様変わりしています。
消費者庁による食品表示法の厳格化に伴い、現在では偽装表示と代用魚の実態は巧妙に不可視化されています。完全に別種の魚を偽って高級魚の名称で提供すれば即座に行政処分の対象となるため、悪質な名称偽装そのものは大幅に減少しました。その代わりに行われているのが、「消費者が誤認しやすい曖昧な商品名」を用いた合法的なコスト削減です。
代表的な例が、居酒屋チェーンの「本日の白身魚フライ」や「海鮮サラダの白身」といった表記です。ここには、南米やアフリカで大量漁獲される「メルルーサ」や「パンガシウス(大型ナマズの一種)」などの淡水・海水魚が一般的に使われています。これらは適切に処理されていれば臭みもなく美味な食材であり、法的な違反性もありません。しかし、消費者が頭の中で勝手に「ヒラメやタイのような高級白身魚」を想像して注文しているという点において、情報格差を利用した販売戦略であることは否定できません。
また、安価なネギトロの大半に植物油(パーム油や大豆油)や酸化防止剤が練り込まれている事実も、一般には十分に周知されていません。脂の乗っていない安価なキハダマグロや端材に15〜20%前後の植物油を乳化混合させることで、まるで本マグロの大トロのような滑らかな舌触りを人工的に作り出しています。これを「職人が包丁で丁寧に叩いたマグロ」だと思い込んで口にしている消費者が少なくないのが、現代の海鮮市場における最大の盲点と言えます。