「自己防衛」という言葉は、一般的に自分自身の生命、身体、財産、精神的平穏、あるいは社会的権利を守るための主体的な行動や思考全般を指します。防犯対策から健康管理、経済的な防衛まで幅広い文脈で使われますが、法律の世界において「自己防衛」という独立した法概念や罪を免除する条文は存在しません。ここに最大の落とし穴があります。
法的に違法性が阻却される、つまり罪に問われなくなるのは刑法第36条に規定された「正当防衛」、または刑法第37条の「緊急避難」に厳格に該当する場合のみです。法律関係者の実務証言によれば、「相手から理不尽な暴言を吐かれたため、自己防衛として胸倉を掴み返した」「殴られそうだと感じたので先制攻撃した」と主張する被疑者が後を絶たないものの、これらは法律上、単なる暴行罪(刑法第208条)や傷害罪(刑法第204条)として処理されます。
近代法には私人が自らの力で権利を回復・防御することを原則禁じる「自力救済の禁止」という根本原則が存在します。正当防衛が成立するためには、「現在進行形で急迫不正の侵害が存在すること」「自己または他人の権利を防衛するためであること」「その反撃行為がやむを得ずにした最小限のものであること」という厳格な3要件を満たさなければなりません。法的な裏付けのない主観的な「自己防衛」は、法廷では一切通用しないという事実を強く認識しておく必要があります。