佃煮作りに着手する前に整理しておくべきが、実山椒と葉山椒の違いおよび素材ごとの特性です。日常会話では混同されがちですが、植物学的なアプローチと調理上の役割は大きく異なります。
一般に「木の芽」と呼ばれる春先(4月〜5月上旬)の新芽は、葉が薄く柔らかで香りが極めて繊細です。この時期の若葉を使ったものは「木の芽煮」とも呼ばれ、料亭の小鉢に並ぶような上品な仕上がりになります。一方、初夏(5月下旬〜6月)にかけて濃い緑へと成長した葉は、精油成分が増してパンチのある辛味を持ちますが、葉脈や小枝が木化して硬くなります。初夏のしっかりした葉こそが、じっくり炊き上げる佃煮に最も適した原材料です。
なお、山椒は雌雄異株の植物であり、雄株(花山椒をつける)と雌株(実山椒をつける)に分かれます。葉自体はどちらの株からも収穫可能ですが、初夏に青い実を結ぶ雌株の実(実山椒)がプチッとした食感と強烈な痺れを持つのに対し、葉山椒は青々とした爽快感と柔らかな口当たりを楽しむ素材です。山椒の葉の収穫時期と旬は地域により4月中旬から6月上旬までと短いため、出回り期を逃さない仕入れが重要です。